INTRODUCTION

世界大戦の火種がくすぶる昭和12年秋、帝国陸軍の結城中佐によって、
スパイ養成部門“D機関”が秘密裏に設立される。
生え抜きの軍人を尊ぶ陸軍の風潮に反し、機関員として選ばれたのは、
東京や京都といった一般の大学を卒業し、
超人的な選抜試験を平然とくぐり抜けた若者たちだ。
彼らは魔術師のごとき知略を持つ結城中佐のもと、爆薬や無電の扱い方、
自動車や飛行機の操縦法はもちろん、
スリや金庫破りの技に至るまで、
スパイ活動に必要なありとあらゆる技術を身につけ、任地へと旅立っていく。
「死ぬな、殺すな」――
目立たぬことを旨とするスパイにとって自決と殺人は
最悪の選択肢であるとするD機関は、
陸軍中枢部から猛反発を受けつつも、
味方を欺き、敵の裏をかき、世界中を暗躍する。
東京、上海、ロンドン……
世界各地で繰り広げられるインテリジェンス・ミステリー。